（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

京都市内を流れる川 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 平安遷都以前
  

  京都概観で示したとおり「平安京」は鴨川と桂川に挟まれている。 　　遷都以前は、その間に「多くの川」が流れていた。 　　（右図は右注釈から引用させていただいた） 　　（先頭へ）

• 平安遷都以降（平安時代）
  • 人が住みやすいように大改修して、条坊制を敷いた。以下「河川」を中心に述べる。
    • 京都市上京区によれば、次のようにある。
      • まず�@東堀川（現在の堀川、通常「東堀川」と呼ばないで単に「堀川」と呼んでいた）と�A西堀川（現在の北部紙屋川の位置）を開削した（＝掘った、だから名前が「堀川」）。
        • 目的は、平安京造営に必要な材木の運搬である。
        • 「鴨川と西堀川」の間には『東京極川、小川、大宮川、耳敏川、西大宮川』が流れる（ようにして、他は埋め立てた）。
      
      
    • 「（東西）堀川の構造」は研究されていて、次の様子であったらしい。
      • 東堀川（堀川）小路の中央に幅４丈（12m）（西堀川は幅２丈＝6ｍ）の川を掘り、その両側に幅２丈（6m）の通りと幅１丈（3m）の側溝（下水路）、とした。
        • 空から見ると「東堀川（堀川）小路は全幅１０丈」（30m）、「西堀川小路は全幅８丈」（24m）もあり「大路」のようであった。
      • 一条大路と東堀川（堀川）小路の交差点には（平安京造営時に）一条戻橋が架けられた。
        • 土御門大路、中御門大路、二条大路（以下同様）などにも橋は必要だったと思うのだが、一条戻橋以外の橋については不明朗である。
        • 貴人が「牛車」で渡るときはどうしたのか。平安時代の物語にも出てこない。一説には船橋（川に船を停めておき、その上に板を渡す）があったとも。
      
      
    • 枕草子には『七瀬川、耳敏川』だけが書かれている。
      • �B七瀬川は鴨川のかなり下流（現在は鴨川から分流して東高瀬川／宇治川に合流）の方を指すらしい。
      • �C耳敏川（みみとがわ）は「朱雀大路の側溝」を指していたらしい。
        • 朱雀大路は全幅２８丈（84m）もあり、東側溝は幅１丈（3m）で、側溝が川に見えたのかもしれない。
        • 夏・冬の晦日の大祓では、朱雀門前の堀（側溝）で行われた（という記録が残っている）。清少納言はこの儀式を思い出して、記述したのだろう。一般には川とは言わない（と思います）。
    
    

    堀川小路と西堀川小路の位置	一条戻橋	西堀川小路の構造
    京都市平安京創生館の「平安京復元模型」から。大宮大路（大内裏の東縁の大路）外側の南北路	「堀川小路の北辺」を東西に渡るように延暦１３年(794)には架橋された（勿論この写真は現在の橋）	発掘現地説明会（京都市埋蔵文化研究所）の配布資料から。東堀川の半分の幅の「狭い川」であったことがわかった（先頭へ）

鎌倉時代以降の「京都市内を流れる川」の推定図 下の写真＝記号「中」＝堀川に架かる「中立売橋」の後継堀川第一橋 （江戸時代にはこの位置に「中立売橋」が架橋されていた）
	右図の記号 「794」＝一条戻橋 「百」＝百々橋 「今」＝今出川橋 「柳」＝柳の井

• 鎌倉時代以降
  • 平安末期、院政時期になると、平安京内での合戦が続き、平安京は荒れ始めた。さらに鎌倉幕府の時代になると、平安京は整備されなくなり、川が氾濫してもそのまま放置され京内に河川が露出するようになってくる。
    • 鎌倉時代以降のいろいろな古地図を漁ると、次のような川が見られる（順不同）。
      • 富小路川、東洞院川、烏丸川（子代川）、室町川、西洞院川、小川、堀川、大宮川、西大宮川など。
  • その後、豊臣秀吉によって縮小整備されると、京内に露出する河川も縮小されたか。江戸時代初期の雍州府志には
    • 高野川、白川、宮川（祇園）、堀川、小川、清瀧川、大井川、桂川、音無川（今熊野）、七瀬川（深草）、古川（鳥羽）、・・・とあり、
    • 「京都の街中」を流れるのは「堀川、小川（こかわ）」の２つしか記述されていない。
    
    
  • 河川の検証
    1. 小川（厳密には「京外」）は、平安遷都以前からあった川で（平安遷都直前の河川図の「古堀川谷」に相当するか）、平安京造営時に「一条大路辺りで東堀川に合流させられた」（と考えられる）。
       • 平安京が（実質的に）北側に拡幅された室町時代後期頃から、歴史の舞台に登場するようになったところも「川」の傍に建てられた。
         • 上京の町組の代表が集まった「革堂」も、創建当初（寛弘元年(1004)頃）は「一条通小川」の北にあった。
         • 永和４年(1378)室町幕府の花の御所が「室町通今出川上ル」に造営されると、幕府関連の建物が小川周辺に建てられるように。そして応仁の乱では百々橋で激戦が繰り広げられた。
         • 江戸時代初期には小川の地下水を求めて不審庵・今日庵が建てられ、茶道のセンターになった。
    2. 西洞院川は、江戸時代には「しっかりあった」はず。博識の黒川道祐（雍州府志の著者）も「川としては」見落としたか。
       • 西洞院大路の東側溝は（１.5丈＝４.5m、西側溝は０.6丈＝１.8m）もともと他の大路より幅広で、川の雰囲気もあった。
         • いつ頃からか、東堀川の増水を「三条大路辺りで西洞院大路の東側溝に分流させた」か、水量も多くなり「西洞院川」と認識されるようになった（と思われる）。
       • 織豊時代になって、織田信雄が「西洞院大路三条下ル」に屋敷を構えたところ、極めて「良い水の井戸」を得て柳の水と名付けた。千利休もこれを茶の湯に用い、この頃から「西洞院川」は知られるようになった。柳の井のことは雍州府志にも出てくる。
       
       

       小川に架かる「百々橋」跡	小川に架かる「今出川橋」跡	西洞院川から湧出する「柳の井」
       応仁の乱最大の激戦地になったのが百々橋（厳密には京外）。橋幅≒4m、橋長≒7.5mとも	みつば幼稚園前に「小川 今出川橋」の石碑が建っている	今なお柳の井の水を使って、黒染めをしている

       
       
    3. 大宮川、西大宮川は、それぞれ「大宮大路、西大宮大路」の側溝を指す（と思われます、上の図）。水があふれた時「川に見えた」のだろう。
       • 富小路川、烏丸川、室町川も同様。
       
       
    4. 今出川、中川、東京極川（これらも厳密には「京外」）は平安京造営時からあった川で、あちこちに名を残している（平安京造営以前よりあった川なのか、造営時に「改修・整備」された川なのかは不明）。
       • 大まかにおいて「１本の川」で、場所ごとに名を変えている。
       • 今出川は、この部分だけ「西から東に流れる」。現在の今出川通となって名を残している。
       • 中川は、今出川が「北から南に流れ」を変えた辺りから「二条」までの間がこう呼ばれる。その後、東京極川となる（上の図参照）。
         • 紫式部は「中川のわたり」と呼ばれる邸宅を持っていて、娘の大弐三位もよく「中川のわたり」（実家）へ戻っていた。「中川のわたり」は蘆山寺に比定されています。
         • 藤原道長は中川の上に法成寺を建立し、この地で亡くなった。
         • 京都で「中川と言えばこの地」と言えれば立派な京都通です。
         • 江戸時代の都名所図会では「上御霊神社」の周りを流れている川を「中川」と描いているので、「今出川の北方向へ“北から南に流れる部分”も中川と呼んでいた」のかもしれない（先頭へ）
    
    

    「相国寺」の中を流れるのは今出川の名残か	「蘆山寺」前を流れる中川	紫式部の「中川の家」候補地の説明板
    相国寺は広いから、どれが今出川の名残か、判明し難い。境内のあちこち水が流れている	「都名所図会」（安永９年(1780)刊行）蘆山寺の前に“川”が描かれている	説明板は梨木神社にある。中川は「梨木神社と蘆山寺の間」を流れていたか

    
    

• 近代・現代
  • 現在は「京都市」がすべての河川を管理している。ほとんどの目的は防災のように感じる。
  • 近代の特徴は物資運搬のための運河を開削したこと。
    • 慶長１６年(1611)角倉了以が開削した�@高瀬川。文学・観光では有名で誰もが知っているが、河川法の対象ではないのか、下の図には出てこない。
    • 文久３年(1863)木材運搬を主目的に運河として開削された�A西高瀬川（当時は渡月橋上流〜千本三条）。現在はさらに延長され、一級河川になっている。
  （先頭へ）
  

  現在の「河川法」に基づく「京都市河川図」 　　赤四角で「平安京」を示した。 　「平安京内」を流れるのは「堀川、天神川、西高瀬川」 　　　の３本のみ。 　　右図の記号 　　「794」＝一条戻橋 　　「三」＝三条橋 　　（右図は「京都市情報館」から引用させていただいた）

  
  

  高瀬川（厳密には「旧平安京外」ですが）		西高瀬川
  今は、史蹟「高瀬川一之船入」（木屋町）で昔を偲べるようになっている	運河としての高瀬川はこんな感じ。写真は（鴨川に架かる）団栗橋の南辺り	クランクして南下する辺り（佐井西通花屋町上ル）、護岸工事がしっかり	東下してきて西土居通を渡る辺りに「三条橋」があった（今は暗渠化されている）

  
  

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  • 以下、旧平安京外を散策すると遭遇する川を紹介する（に留めたい）。
    1. 紙屋川は、平安遷都以前からあった川で（平安遷都直前の河川図の「天神川」に相当するか、恐らく当時は別の名前で呼ばれていた）「平安京造営時に西堀川として開削・改修された」（と考えられる）。
       • 現在は今出川通までを「紙屋川」と呼び、それ以降を「天神川」と呼ぶのが普通らしい。
       • （個人的には）西土居通に沿っている間（西大路通太子道まで）を「紙屋川」と呼びたい。
    2. 天神川は、昭和に入って（昭和１０年(1935)頃からか）水害対策で太子道から西へ曲げ、御池通で御室川と合流して南下する一級河川に改められた。
       • 河川法によれば「紙屋川＋天神川」を一本化して「天神川」と呼ぶ（河川法では「紙屋川」は無い）。

       紙屋川		天神川
       北野天満宮の御土居近くを流れる	「今出川通」を越えて西土居通と並行して南下している辺り（写真は「妙心寺道」を越える辺り）	この地点（西大路通太子道）で西へ曲げ、向きを変える	現葛野中通に沿って南下する（しっかり護岸工事がなされていて）味わいは無い

       
       
    3. 御室川は（これまで１回も触れてこなかった川ですが）、栂尾・沢山辺りを源流とする「中田川・高鼻川・三宝寺川・宇多野谷川」を集めて平岡八幡辺りから「御室川」と名前を変える一級河川。
       • 御池通天神川辺りで天神川に合流する。
       • 「鳴滝・双ヶ岡」辺りを散策すると、御室川によく出合う。
    4. 清滝川は（とても市内を流れる川とは言い難いですが）、飯森山などのある城丹国境尾根辺りを源流とする川を集めて小野辺りから「清滝川」と名前を変える一級河川（河川法では最源流の西谷川辺りからを一本化して清滝川としている）。
       • 北山杉の「中川」を経て「栂尾・槙尾・高雄」を流れ錦雲渓・金鈴峡でハイライトを迎え、落合橋で保津川（河川法では「桂川」）に合流する。
       • 「北山」ハイキングで、澄んだ水流の清滝川によく遭遇する。

       御室川		清滝川
       太子道天神川辺り。思ったより多い水量で流れる、護岸も草が付いている	御池通天神川辺り。北東方向から「天神川」、北から「御室川」が合流する	「嵯峨清滝」から愛宕山表参道に向かう「渡猿橋」、その橋から見る清滝川	清滝川に沿う「錦雲渓・金鈴峡」を歩くとき、写真の「潜沈橋（小泉橋）」を渡る

       
       
    5. 白川は、比叡山の南稜を源流として「地蔵谷川・桜谷川」を集めて、東山地区を流れて鴨川に注ぐ一級河川。
       • 川床の砂は真っ白で「白川砂」と呼ばれ、龍安寺や銀閣寺などの石庭に使われている。
       • 「白川」を遡って行くと志賀越え（山中越え）で琵琶湖畔へ出られる。
    6. 疏水（正確には「琵琶湖疏水」ですが、京都人は単に「疏水」と呼びます）は、京都の産業振興のために明治２３年(1890)完成させた施設。勿論「河川」ではなく、「運河」とも言い難い。
       • 京都市内を流れる「水の流れ」の内、唯一南から北へ流れているのが疏水です。
    
    

    「白川」（青線）と「琵琶湖疏水」（橙線）は近接している 　　「琵琶湖疏水」は（白川との区分をはっきりさせるためだけだから） （ここでは）「岡崎疏水・哲学の道・北白川疏水」だけを取り上げた （表面上、岡崎公園の南縁で重なって見えますが、地中で水の流れは分離しています） 川（または水の流れ）を見て、両者の区別ができるようになるのが 　　　　　　　　　　京都通の第１歩です 　　（先頭へ）

    
    

    白川		疏水
    「浄土寺」辺り（左京区浄土寺真如町）。水量も多い	「祇園」の中を流れる白川。場所柄「疏水」と間違える人が多い	「北白川疏水」、この辺りも水は「南から北へ」流れている（変な感じです）	「哲学の道」（若王子橋の近く）。白川と疏水の見分けは中々難しい。

    
    
    • 現在の「河川法」に基づく「京都市河川図」に出てくるその他の川（先頭へ）
      
      

      西羽束師川	有栖川	山科川	音羽川
      「桂離宮」あたりから久我（写真は久我近くの西羽束師川）を経て、桂川に注ぐ	大覚寺あたりから嵐電「有栖川」付近（写真：嵐電の線路が見える）を経て梅津で桂川に注ぐ	山科あたりの「中心的な川」、色々な支流を集めて、桃山で宇治川に注ぐ。写真は三角点「山科川」（山科区西野離宮町）	比叡山から「修学院離宮」を経て、松ヶ崎で高野川に注ぐ。写真は「比叡山を望む修学院道」（護岸工事が大きい）