（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

（南北）両統迭立（前期）の里内裏 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 両統迭立のきっかけ
  • 88後嵯峨（上皇）が、89後深草（上皇）の皇子熈仁（後の92伏見）を差し置いて、90亀山（天皇）の皇子世仁（後の91後宇多）を立太子した（文永５年(1268)）。
    • 88後嵯峨が90亀山を偏愛したことによる。
    • 89後深草がおとなしくしていれば、90亀山の子孫が天皇家を継いでいくことになる（はずだった）。
    
    
  • 89後深草は（91後宇多即位後）鎌倉幕府に訴えて皇子熈仁（後の92伏見）を立太子させることに成功した。
    • これで「90亀山の子孫だけが天皇家を継いでいくこと」は阻止できた。
    
    
  • そうなると次は「92伏見の皇太子を誰にするか」で揉めて、結局（問題先送り型で）幕府（執権貞時）は両皇統を交互即位させる（両統迭立）方針を定めた（弘安９年(1286)）。
    • これで「両統迭立」が約束事になった（93後伏見、94後二条、95花園、96後醍醐）。
    
    

    以降、 持明院統（北朝）は赤系統 大覚寺統（南朝）は青系統で表示する 天皇名の前は「代数」 「天皇・上皇」は省略する

• 天皇についての補足
  • 88後嵯峨
    • 幕府の選別を経て、２３歳で即位（仁治２年(1241)）。４年で譲位し、院政を敷いた。
    • 「五条院」を院御所として新造、嵯峨に「亀山殿」（現在は天龍寺の敷地内、大堰川沿い、大覚寺にも近い）も造営した。文永９年(1272)５３歳、大覚寺で崩御。
    • 治績に見るべきものはない。（結果的に）両統迭立を引き起こしたのは「この人の選り好み」。
  • 89後深草
    • 88後嵯峨の早期譲位で４歳で即位（寛元４年(1246)）。88後嵯峨の院政下、１７歳で譲位させられる。先に院政を始めた90亀山の後を受けて４２歳で漸く院政を開始した（弘安１０年(1287)）。
    • 在位中の建長４年(1252)長講堂領を伝領する。嘉元２年(1304)６２歳、冷泉富小路殿で崩御。
    • 治績は「後継問題」のみだが、女房「後深草院二条」の書いた「とはずがたり」で名を残した。
  • 90亀山
    • 88後嵯峨の院政下、１２歳で即位（正元元年(1259)（１１月））。91後宇多に渡すべく２６歳で譲位、89後深草より先に即、院政を開始した（文永１１年(1274)）。
    • 在位中の弘安６年(1283)「安嘉門院」に伝領されていた八条院領を強引に伝領した。嘉元３年(1305)５７歳、88後嵯峨の造営した「亀山殿」で崩御。
    • 院政下、２度の蒙古襲来を受けた（90亀山は祈願のみ）。院政終了後、正応４年(1291)南禅寺を開創した。
  • 91後宇多
    • 90亀山の院政開始と同時に、８歳で即位（文永１１年(1274)）。89後深草と幕府の働きかけで、皇太子は89後深草の皇子熈仁（後の92伏見）となったので、２１歳で譲位すると、89後深草が院政を開始した。
      • 以降は幕府の方針通り院政も両統迭立に。
    • 91後宇多が院政を開始するのは、３５歳になってから。１４年間のブランクがある。96後醍醐の時は「院政」の地位に就いたが「96後醍醐の親政」とした。
      • したがって91後宇多の隠居に伴って「応徳３年(1086)に始まった」院政は元亨元年(1321)（１２月）幕を閉じた。
    • 元亨４年(1324)５８歳、「大覚寺」で崩御。
    • 95花園から「天性聡敏、末代之英主也」と称えられるほどの人物であったらしい。
  • 92伏見
    • 89後深草の頑張りで91後宇多の皇太子になれて、その譲位で２３歳で即位（永仁６年(1298)）。能書家として知られる。
    • ３４歳で譲位するも、鎌倉幕府の「両統迭立」方針に沿って、譲位即院政開始となった。文保元年(1317)（９月）５３歳、「持明院」で崩御。

• 里内裏についての分析
  • 調査の結果は次のとおり（一部、正確性を欠くところもありますが、ご容赦ください）。
    • 表は「年単位」にしたため、細かなところでは「重複などの誤差、不正確性」がある。
    • 短期的に「他の里内裏」へ移動したこともあろうが、あまり短期間の移動は省略した。
    • 「院御所」については史料が不足している。「はっきりわかる時期」のみ記載した。
  • 両皇統の名称
    • 歴史の本では「92伏見から始まる皇統」を「持明院統」、「91後宇多から始まる皇統を「大覚寺統」と呼んでいる。
      • 「大覚寺統」は、「両統迭立」の切っ掛けになった91後宇多が「大覚寺」で崩御（元亨４年(1324)６月）したこと、によるものだろう。
      • 「持明院統」は、「両統迭立」の切っ掛けになった92伏見が「持明院」で崩御（文保元年(1317)）したこと、によるものだろう。
        • 本ページでは説明の都合上、89後深草も「持明院統」、90亀山も「大覚寺統」として扱っている。
    • 当時の人々はどう呼んでいたのか、興味ある問題だが、明解な史料は無い。
  
  
  • 大胆な分析結果（推測）は次のとおり。
    • 両統迭立期は決して両統は仲悪かった訳ではない。
      • 両統は「ご近所同士」であった（下の地図参照、よく顔を合わせたであろう）。
      • 一緒に住んだこともあった（弘長２年(1262)頃、文永年間(1265-)頃）。
      • 火災焼失のときなどお互いに屋敷を融通し合ったこともあった（文永３年(1287)、永仁５年(1297)）。
      • 天皇在位期間は分け合った（お互いに「半分」になった）がお互いに敬意を払っていたと思われる（95花園の91後宇多評）。
      
      
    • 南北朝並立期（建武３年(1336)以降）になると、戦争していたわけですから、仲良く懇談する機会などもなかったでしょう（この期間については調査・分析していませんので、全くの推測）。

	（表の凡例） 持明院統（北朝）系の里内裏・院御所は 　　　　赤系統の背景 大覚寺統（南朝）系の里内裏・院御所は 　　　　青系統の背景　　にした 「丸に炎」は里内裏・院御所が火災焼失したことを示す 「丸に崩」はその地で崩御したことを示す 「新造遷幸」は焼失建物が再建されて戻ったことを示す
	（図の補足） 「五条院」（五条通大宮の北東角） 「持明院殿」（新町通上立売上ル、京外） は少し遠いので省略した 「押小路殿」＝90亀山 「春日殿」＝92伏見 「花山院」（幽閉）＝96後醍醐 が院御所にしたとの記録もある

• 里内裏についての補足
  1. 閑院（伝統の里内裏、この期間は89後深草のみが使った）
     • 藤原冬嗣（775-826）の邸宅に始まり、藤原公季（957-1029）が「閑院」と称し、堀河天皇（1079-1107、白河上皇との説も）が里内裏に使ったのを初めとして、方四町もある館として長きにわたって里内裏に使われた。
     • 正元元年(1259)（５月）の火災焼失以降、再建されることは無かった。
     
     
  2. 五条院（偏愛する88後嵯峨が90亀山のために造ったと思われる）
     • 建長８年(1256)88後嵯峨が院御所として新造した。所在地は「五条北、大宮東、南北二町、東西一町」とある。「五条殿」「五条大宮殿」とも呼ばれた。
     • 一時期（文永のどこか(1265-1266頃か)）89後深草も一緒に住んだ（富小路殿焼失による一時的な避難と思われる）との記録もある。
     • 文永７年(1270)の火災焼失以降、再建されることは無かった。
     
     
  3. 富小路殿（いろいろ変遷があり、各史料でも名前が混同されている）
     • 冷泉富小路殿時代（持明院統が使用）
       • 元々は待賢門院藤原璋子の御所「二条富小路殿」（1132-1137火災）であったが、西園寺実氏（1194-1269）が「冷泉富小路殿」に作り直し、89後深草は正元元年(1259)（５月）閑院焼失に伴い、再度ここに「里内裏」を構えた。
       • 同年ここで90亀山に譲位した（表の(*1)はそれを示す）。89後深草は退位後も「院御所」として使っていた。そして一時期（1262頃か）90亀山は一緒に住んだ（理由は不明）との記録もある。
       • 文永２年(1265)の火災焼失したが、再建後89後深草はここを使い続けた模様（明確な史料が無い）、そして弘安１０年(1287)92伏見の内裏、さらに89後深草、93後伏見の院御所として使われた。
       • 嘉元２年(1304)89後深草がここで崩御してすぐ、嘉元４年(1306)火災焼失した。いろいろな名称で呼ばれているが、以上の期間を「冷泉富小路殿」時代と呼ぶことにする。
     • 二条富小路内裏時代（両皇統で交互に使う）
       • どういう風の吹き回しか正和元年(1312)鎌倉幕府（執権宗宣）から「造内裏費用」が献上され、文保元年(1317)この地に平安宮内裏の殿舎構成に准じた「里内裏」が完成した。この時点以降を「二条富小路内裏」時代と呼ぶ。
       • 晴れて両皇統で交互に使うようになった。
       • 残念なことに建武３年(1336)の戦乱で焼失した。
     
     
  4. 二条高倉殿
     • 鎌倉時代初期に後鳥羽院の御所があったところに（上の地図参照、石碑は建っていない）90亀山の外祖母「今林准后」の准后御所が造られた（弘長３年(1263)）。
     • その後90亀山、91後宇多、94後二条が内裏・院御所として使った。ただし「冷泉富小路殿」焼失の折（永仁５年(1297)）92伏見の内裏として貸したこともある。
     
     
  5. 大炊御門万里小路殿（平安後期からの名邸、上の表では「大炊御門殿」と略した）
     • 平安後期の源高房邸に始まる名邸で、西園寺実氏（1194-1269）が手を入れ88後嵯峨に譲り、以降90亀山、91後宇多が内裏・院御所として使った。
  6. 常盤井殿（京外の院御所）
     • 西園寺実氏（1194-1269）が「東京極大路」の外側に別邸を造った（鴨川の水を引いて井戸にした、文応元年(1260)以前）。
     • その後90亀山の監理となり、二条高倉殿の火災焼失（弘安元年(1278)（閏１０月））に伴い、90亀山はここに院御所を移した。
     • 一方、92伏見即位（弘安１０年(1287)）に伴い、89後深草が冷泉富小路殿からここに院御所を移した。90亀山が許可した模様。
     
     
  7. 二条南富小路殿（冷泉富小路殿の焼失代替地か）
     • 経緯・位置・名称とも不明瞭。一部の資料に、「冷泉富小路殿」の焼失代替地として「二条南富小路殿」（上の地図参照）があり、93後伏見、95花園の内裏として使った、とある。
  8. 持明院殿
     • 藤原基家（1132-1214）の邸宅に始まる。その持仏堂の名前を「持明院」と言い、後に後高倉・後堀河が「上皇御所（仙洞）」としたことから「持明院仙洞御所」と呼ばれるようになった。
     • ここに住んでいた「室町院」（86後堀河の皇女「暉子（てるこ）内親王」）と親しい間柄にあった92伏見は、室町院没後（正安４年(1302)）、ここに「院御所」を移し、自ら亡くなるまでここに住んだ。
     • 96後醍醐が「二条富小路内裏」で建武の親政を始めた後、93後伏見、95花園、光厳は「院御所」としてここで過ごした。

持明院統	持明院（名前の基となった持仏堂）	長講堂（持明院統の所領の名義）	冷泉富小路殿	常盤井殿（下御霊神社）
	持明院を御所にした「92伏見」がここで崩御（文保元年(1317)）した	「89後深草」が伝領した。往時は「西洞院六条」にあったが、現在は「富小路通六条上ル」にある	「両統迭立期」は「89後深草」以降持明院統が長く使った。文保元年(1317)鎌倉幕府の再建で「二条富小路殿」となった	「90亀山」の監理（往時の井戸の名は常盤井）だが、「89後深草・93後伏見」が使った。現在は下御霊神社が遷座している
大覚寺統	大覚寺（名前の基となった寺）	八条院（大覚寺統の所領の名義）	五条院	大炊御門殿
	池の先に「91後宇多」が崩御（元亨４年(1324)６月）した大覚寺「宸殿」が見える	「90亀山」が「安嘉門院」から強引に伝領した。現在はＪＲ京都駅八条口中央案内所に碑を残すのみ	88後嵯峨が「90亀山」のために造ってくれた御所。碑（「舊趾」）は「御前通高辻」の角に建っている	「二条高倉殿」碑は見つからない。この石碑には「大炊御門万里小路殿」（「90亀山」以降大覚寺統が長く使った）とある

• 南北朝並立へ
  • 正中の変（正中元年(1324)）時点では、親政96後醍醐の皇太子は「両統迭立」の約束で93後伏見の第三皇子「量仁親王（後の光厳）」であった。
    • したがって元弘の変（元弘元年(1331)）で96後醍醐が敗れて京から逃亡したとき、鎌倉幕府は「光厳」を即位させた。
    
    
  • ところが96後醍醐が隠岐から復帰して元弘３年(1333)建武の新政を開始、光厳即位を否定、両統迭立を廃止した。
  • ところが延元元年(1336)決別した足利尊氏が96後醍醐から「三種の神器」を取り上げ、93後伏見の第九皇子「光明」を即位させた。
    • この後96後醍醐は幽閉先の「花山院」から吉野へ脱出し、先の「三種の神器」は贋物と主張して朝廷を開いた（これを「南朝」という）。
      • これで今度は南北朝並立となり、「光明」側は「北朝」と呼ばれる。
      • 南北朝並立を引き起こしたのは「96後醍醐の強引さ」。

笠置山（京都府相楽郡）	花山院（東洞院通下立売下ル）
元弘元年(1331)96後醍醐は京から逃亡して、ここ笠置山に潜幸した	建武３年(1336)96後醍醐は花山院（往時の藤原忠平邸、左京一条四坊三町、現在は宗像神社）から脱出した