（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

里内裏 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 最初の里内裏は天徳４年(960)の村上天皇である。
  • 天徳４年(960)９月２３日平安京創設以来最初の内裏火災があり、冷泉院（れいぜいいん）に遷御し、「冷泉院を里内裏」とした。
  • 以下、内裏火災についてまとめた（鈴木亘（日本建築学会論文報告集第２５７号昭和５２年７月）の論文に基づく、月日は旧暦、期間（日数など）は概算）。
    • 該当する天皇　　　　数字は「代数」、「天皇」は省略
    • 里内裏の場所　　　　ここでは「代表的な里内裏」のみ（詳細はこちらへ）

    回数	内裏焼失日			該当する天皇	里内裏の場所	里内裏期間	内裏還幸日			次の焼失までの期間	備考
    １	天徳４年(960)	９月	２３日	62村上	冷泉院	約４２０日	応和元年(961)	１１月	２０日	約１４年６ヶ月	再建後すぐ内裏に戻る
    ２	天延４年(976)	５月	１１日	64円融	堀河院	約４４０日	貞元２年(977)	７月	２９日	約３年４ヶ月	３回も火災に遭遇 ３度目の内裏還幸を期に（還幸してから）譲位
    ３	天元３年(980)	１１月	２２日		四条後院	約３４０日	天元４年(981)	１０月	２７日	約１年１ヶ月
    ４	天元５年(982)	１１月	１７日		堀河院	約６５０日	永観２年(984)	８月	２７日	約１４年７ヶ月
    ５	長保元年(999)	６月	１４日	66一条	一条院	約４８０日	長保２年(1000)	１０月	１１日	約１年２ヶ月	同様に３回の火災に遭遇 ３度目の再建目前、一条院に移って崩御
    ６	長保３年(1001)	１１月	１８日		一条院	約６９０日	長保５年(1003)	１０月	８日	約２年２ヶ月
    ７	寛弘２年(1005)	１１月	１５日		東三条殿	約２,１００日	寛弘８年(1011)	８月	１１日	約２年６ヶ月
    ８	長和３年(1014)	２月	９日	67三条	枇杷殿	約５９０日	長和４年(1015)	９月	２０日	約２ヶ月	あっと言う間にまた火災 ２度目の再建を前に譲位
    ９	長和４年(1015)	１１月	１７日		枇杷殿	約９００日	寛仁２年(1018)	４月	２８日	約２１年２ヶ月
    １０	長暦３年(1039)	６月	２７日	69後朱雀	二条殿	約９００日	長久２年(1041)	１２月	１９日	約１２ヶ月	２度目の再建を前に東三条殿で崩御
    １１	長久３年(1042)	１２月	８日		東三条殿	約１,４００日	永承元年(1046)	１０月	８日	約２年１ヶ月
    １２	永承３年(1048)	１１月	２日	70後冷泉	高陽院	約８,３３０日	延久３年(1071)	８月	２８日	約１０年１１ヶ月	再建中、天喜６年(1058)２月２６日火災 内裏再建を見ることなく高陽院で崩御
    １３	永保２年(1082)	７月	２９日	72白河	堀河院	約６,５００日	康和２年(1100)	６月	１９日	約５０年２ヶ月	再建前に譲位、応徳３年(1086)院政始める
    １４	久安６年(1150)	８月	４日	76近衛							元服した途端に、地震で崩壊

    
    
  • 応徳３年(1086)院政以降は若干ややこしい（以下、若干推察を含む）。
    • 応徳３年(1086)白河上皇は里内裏から鳥羽の院御所に入った。
    • 康和２年(1100)再建から「73堀河−74鳥羽−75崇徳−76近衛」天皇は久安６年(1150)の地震で内裏崩壊までは、内裏に居られたはずだが・・・
      • 院政が始まって、天皇も内裏に入らず里内裏を使った記録も多い（後述）。
    • 保元元年(1156)内裏再建に着手したが保元の乱(1156)・平治の乱(1159)が続き、院政による内裏の重要性低下もあり、一部が復旧されるに留まった。
    • したがって実質は久安６年(1150)76近衛までで内裏の役割は終了した（と考えるのが良さそう）。
      • 院政を行った「77後白河と80高倉」は院御所で
      • その他「78二条−79六条」は「一部復旧した内裏と里内裏」で生活した（と思われる）。
        • 「81安徳」は（６歳で没）「六波羅や源平の戦場」で過ごした。
  • 鎌倉時代(1185)になって
    • 「82後鳥羽−83土御門−84順徳」と続く。
    • 承久元年(1219)84順徳天皇のとき再建を試みるも「再建中に火災に遭遇」、嘉禄３年(1227)86後堀河天皇は再建を放棄以降平安京位置に内裏が再建されることはなかった。

小倉百人一首６８番	白河院の成菩提院陵	小倉百人一首７７番
67三条は在位＝５１月、内裏使用＝１８月	72白河の院政以降、内裏の重要性が低下した	75崇徳は里内裏を使う必要はなかったのに

• 内裏火災と里内裏利用の分析
  • 平安時代の「内裏災害回数」は１４回。
    • 再建中の火災（天喜６年(1058)を入れると、１５回。
    • 内１回は（久安６年(1150)）は地震なので、火災には含めにくいか。
  • 「里内裏期間」
    • 一条天皇の頃から「長くなっている」＝「再建に時間が掛かる」ようになっている。
      • 要因１：（回数を重ねることで）里内裏が充実してきた。
        • 外戚関係にある藤原家の邸宅も立派になり、生家・幼少期の家または外戚の家は「里内裏として快適」であると思うようになってきた。
      • 要因２：天皇家の経済力が弱くなってきた（すぐに再建できない）。
      • そのため内裏に戻れない天皇が多くなった。
  • 定量的に分析すると（天徳４年(960)〜久安６年(1150)）
    • 平均すると「里内裏期間＝約１,８３０日≒５年」。
    • 逆に「内裏期間（内裏を使えた期間）＝約３,５００日≒１０年弱」。
    • 約１／３が「里内裏生活」であった。（先頭へ）

上記の表を横棒グラフにすると、図のようになる。「緑」部分が「里内裏期間」（ただし「年単位」にまとめたので多少、不正確）。 下の欄は「在位天皇」と「院政」（ただしこれも「年単位」にまとめた）。

• 記録に残る里内裏
  • 文献を読むと「いろいろな里内裏」が出てくる。
    • 半年足らずで移り住む「里内裏」もある。
    • 元宮内庁職員・橋本義彦氏の資料に基づきまとめた。
      • 年齢の欄　　　数え年
      • 退位の欄　　　（崩御）＝崩御直前に譲位
      • 緑色系の背景　（上述したように）内裏に居られたはずの天皇

    天皇	在位期間の年齢	退位	里内裏の場所	補足
    村上	３５〜４２歳	（崩御）	冷泉院	内裏で崩御
    冷泉	１８〜２０歳	譲位		里内裏を使わなかった、譲位後冷泉院で崩御
    円融	１１〜２６	譲位	堀河院、四条後院	譲位後、円融寺（龍安寺近く、今は無い）で崩御
    花山	１７〜１９歳	譲位		里内裏を使わなかった、譲位後、花山院で崩御
    一条	７〜３２歳	（崩御）	東三条殿（誕生）、枇杷殿、一条院（崩御）	母＝藤原詮子（あきこ、道長の姉）
    三条	３６〜４１歳	譲位	東三条殿（誕生）、一条院（受禅）、枇杷殿（譲位）	譲位後、三条院（道長が造営した後院）で崩御
    後一条	９〜２９歳	崩御	一条院、土御門殿（受禅）	藤原道長の外孫、内裏で崩御
    後朱雀	２８〜３７歳	（崩御）	土御門殿（誕生）、二条殿、一条院、高陽院、東三条殿（崩御）	藤原道長の外孫
    後冷泉	２１〜４４歳	崩御	東三条殿（受禅）、土御門殿、二条殿、冷泉院、四条殿、一条院、三条堀河殿、高陽院（崩御）	藤原道長の外孫、ほとんど里内裏
    後三条	３５〜３９歳	（崩御）	閑院（受禅）、二条殿、三条大宮殿、高陽院、四条殿	譲位後大炊御門万里小路殿で崩御
    白河	２０〜３４歳	院政	高倉殿、高陽院、六条院、堀河院、三条東殿	法皇になって三条西殿で崩御
    堀河	８〜２９歳	崩御	堀河院（受禅、崩御）、大炊殿（南殿）、閑院、二条殿、高陽院	父白河院の専制強まる
    鳥羽	５〜２１歳	譲位	大炊殿（西殿）、小六条殿、土御門万里小路殿、高陽院、大炊殿（東殿）、土御門烏丸殿	中宮待賢門院を挟んで祖父白河院と不仲に
    崇徳	５〜２３歳	譲位	土御門烏丸殿（受禅）、三条南殿、二条殿、小六条殿	讃岐の配所（保元の乱）で崩御
    近衛	３〜１７歳	崩御	土御門烏丸殿（受禅）、四条東洞院殿、八条殿、小六条殿、近衛殿（崩御）	ずっと父鳥羽の院政下にいた

    
    
    • 里内裏には別名が多い（これが“わかり難くしている”原因）。本ページでは「比較的一般的な名前」を採用した。以下に、別名を示す。
      • 冷泉院＝冷然院
      • 土御門殿＝京極院、上東門第
      • 土御門烏丸殿＝土御門殿（上の土御門殿と同名なので注意しないと間違える）、土御門烏丸内裏
      • 一条院＝一条大宮第、大宮院
      • 二条殿（二条第とも）＝二条東洞院殿、二条高倉殿
      • 東三条殿（東三条第とも）＝東三条院
      • 三条東殿＝三条烏丸殿
      • 三条南殿＝三条烏丸殿、三条烏丸御所、三条桟敷殿、三条京極殿
      • 三条大宮殿＝御子左第
      • 高倉殿＝土御門高倉殿、土御門内裏
      • 大炊殿（東殿）＝洞院殿
      • 小六条殿＝西六条殿、六条殿
      • 八条殿＝八条第、八条院東殿、東八条殿
    • 逆に「同じような名前」でも違う里内裏もある。
      • 東三条殿と三条東殿（共に由緒ある）
      • 四条院（元々の「四条後院」で広大）と四条殿（四条大路の南にある）
    • 「紛らわしい石碑」には注意。
      • 二条殿址石碑（両替町通御池上る東側にあるが、これは「南北朝時代」の邸宅。里内裏の二条殿ではない）
    
    

• 里内裏の位置を示すと次のようになる（若干不確かな里内裏もあるが御容赦）。（先頭へ）

背景＝緑：石碑（または木札、説明板）がある 背景＝青：なにも痕跡は残っていない 背景＝白：参考までに （注１）「八条殿」は東八条殿のこと。地図が縦長になり過ぎるので七条以南は省略した。 （注２）「大炊御門万里小路殿」は厳密には「里内裏」ではないかも。後三条天皇は譲位後に遷ったとも、鳥羽天皇里内裏の記録にも“うっすら”出てくるが確証はない。