（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

恭仁京 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

• 奈良時代の都（みやこ）
  • 誰もが平城京を思いつくが、腰の落ち着かない天皇がおられて、何回か遷都している。

「都」の大きさは「不正確」（位置の図示を目的とした） 当時の「川、池、海」の感じがよくわかる 「星のまち交野に掲載の図」を改変した

• さまよえる聖武天皇（５年の間に３回の遷都）
  • その初めが恭仁京
    • 天平１２年(740)１０月２９日、伊勢へ向かって「関東行幸」を始める（関東＝鈴鹿・不破の関の東側の意）。
      • 天平１２年(740)９月３日「太宰少弐藤原広嗣の乱」を知って決意したか（実際には１０月２３日には鎮圧されている）、初めから「廬舎那仏を造立」するためか。
      • 伊勢から、不破／横川（米原市醒ヶ井近く）／蒲生／野洲／粟津を経て、天平１２年(740)１２月１５日「恭仁」に入った。
        • （実は芸が細かくて）１２月６日横川から恭仁に別業を持つ「右大臣橘諸兄」を恭仁へ先行させ、到着の準備をさせている。
        • （どう連絡したか）同じ１２月１５日「元正太上天皇、光明皇后」も「恭仁」にやってきた。
        • 天平１３年(741)１月１日には（建屋が無いため）「恭仁京の帷帳の中」で朝賀。
    • 天平１３年(741)１月１１日、伊勢神宮などに使者を派遣して「恭仁京遷都の報告」（周知）させ、２月１４日には全国に「国分寺建立の詔」を発した。
      • 「どの日を遷都と見るか」は難しいところ。天平１３年(741)であることは間違いない。
    • 天平１３年(741)１０月頃から「紫香楽への道（東北道）」の開削・拡幅などの工事に着手した。
    • 天平１４年(742)・天平１５年(743)正月の朝賀は「恭仁京の四阿殿」で、天平１６年(744)正月の朝賀は「漸く完成した恭仁京の大極殿」で受けている。
    • 「三世一身の法」（養老７年(723)）を促進すべく天平１５年(743)５月墾田永年私財法を定める。
      • 「盧舎那大仏造立」費用の勧進者を増やすのが目的だったか。これで公地公民の仕組崩壊が始まり、結果的には荘園制への道を開いた。
    • （後述するように）難波宮へ移って天平１６年(744)２月に廃都となった。聖武天皇が最後に「恭仁京に入った」のは天平１７年(745)５月６日、地震被害確認のため「紫香楽宮」へ往復したときと思われる。
      • 結局「恭仁京」は「木津川（泉河）の水運を背景」にした盧舎那大仏造立の後方兵站基地（３年間）の役割を果たすためのものだけだったか。
    
    
  • 紫香楽宮は
    • 天平１４年(742)２月５日「東北道」の開通を受けて、天平１４年(742)８月１１日「紫香楽」への行幸計画を発表。
      • 天平１４年(742)８月〜天平１５年(743)１１月の間に４回行幸。
      • その４回目は天平１５年(743)７月２６日〜１１月まで「４ヶ月」と長い。その１０月１５日に「盧舎那大仏造立」の詔を出した。
      • 「紫香楽の炭を使って」２年半廬舎那仏の造立を行っていた（と推測されている）。
    • 天平１６年(744)難波宮に遷都した後も、紫香楽宮で「廬舎那仏の造立」を見守り、詔から１年後の同年１１月に漸く「廬舎那仏の体骨柱」を建てるに至り、天平１７年(745)の正月は「紫香楽宮」で迎えた。しかしこの間「紫香楽宮」を京（みやこ）にする気は無かったようです。
    
    
  • さらに難波宮へ
    • 何を思ったか唐突に天平１６年(744)１月１１日「難波宮」への行幸準備を命じ、１月１３日「難波宮」着。そして２月２６日には「難波宮の皇都宣言」を発した。
      • （難波宮には思い入れがあって）神亀３年(726)１０月に「難波宮の再興」に着手し、以降副都として「摂津職」にずっと監理させていた。
    • 「元正太上天皇、左大臣橘諸兄」に難波宮を任せ、「参議藤原仲麻呂」に恭仁京を任せ、聖武天皇は「紫香楽」に足繁く通った。
    • ところが天平１７年(745)４月に「紫香楽宮」の東山で大火災、４月末〜５月初め「紫香楽、恭仁京」で大地震が連発したため、（制作中の廬舎那仏も崩壊したか、失意の中）これまでの計画を一切チャラにして、天平１７年(745)５月１１日平城京へ戻った。
      • （参考までに）廬舎那大仏が完成したのは天平勝宝４年(752)（平城京の東大寺で開眼会）。
    • その後も「難波宮」は「副都」であり続けたが、平安京遷都後の延暦１４年(795)「廃止」された。この間難波の京（みやこ）の存在は確認されていない（ということで「難波宮」と記す）。
      • 結局なんのために１年間難波宮を皇都にしたのか不明です。

• 恭仁京はどんな街だったか
  • 「万葉集」に田辺福麻呂の「久邇の新京を讃むる歌」で『泉川が流れ 鹿背山のそばにある恭仁京は 川が近く 山も近いので 鳥が鳴き 秋には鹿も鳴き 春には花が乱れる』と誉めている。
  • 大伴家持も『今造る 久邇の都は 山川の さやけき見れば うべ知らすらし』と詠っている。

  「京都府埋蔵文化財調査研究センター」の「足利健亮」の恭仁京復元案をカシミール地図上にマップしたもの 「木津川（泉河）」を重視していることがよくわかる 造営は、天平１２年(740)１２月１５日〜 造営卿の任命は天平１３年(741)９月８日 　　（この頃「条坊地割」が行われた模様） 天平１５年(743)１２月２６日が最後の工事 （参考）△７は浄瑠璃寺（永承２年(1047)建立）

  
  
  • 「条坊制を示す遺構」は確認されていないが、上の図のような復元案が有力視されている。特徴（補足）は次のとおり。
    • 中央に「鹿背山」（かせやま、標高141ｍ、上の図の△１）があるため、「左京・右京」は左右に分断された（中央帯に条坊は造らない変な形）。
    • 中央に「木津川（泉河）」が横断する。「泉橋」（上の図の△２）は当初から架けられた。洛陽に「洛水」が流れているのを真似たか。
      • 「泉橋」の北に、天平１２年(740)行基は（今も残る）「泉橋寺」を建立している。
    • 復元案（上の図）では「南北幅（縦）＝約4，000ｍ」「左京・右京の東西幅（横）＝約2,120ｍ（それぞれ）」となっている。
      • 勿論「そんなに大きくはなかった」との批判はある。
      
      
    • 造京する前からあった施設（これらによって良い土地勘を持ったか）。
      • 「橘諸兄の別業」（天平１０年(738)１０月１７日には宴会を開いている（万葉集））
        • 「馬場南遺蹟」（上の図の△６）と考えられている。
        • 聖武天皇も何回か行幸している、少なくとも２回、天平１１年(739)のどこか＋天平１２年(740)５月には行幸している。
      • 元明天皇（在位707-715）の「甕原離宮」（和銅６年(713)６月２３日に元明天皇は行幸している）
        • 「法花寺野」集落（上の図の△４）と考えられている。
        • 聖武天皇も天平８年(736)３月、天平１１年(739)に行幸している（実はもう少し若い頃の神亀４年(727)５月にも）。
      
      

      △２「泉橋寺」	△６「橘諸兄の別業」（と思われるところ）	三上山（△５の北方）
      現在の寺は元禄年間(1688-)に再建されたもので、泉大橋のたもとにある（場所は往時のままか）	「南馬場遺蹟」、今は宅地開発に呑み込まれ、跡すら見えない	恭仁京址から見上げる三上山（中腹に「観音寺」があった）

      
      
    • 造京する前からあった恭仁京外の施設（平城京からそんなに遠くないと思われていたか）。
      • 蟹満寺（上の図の△３、今も国宝の仏像が残る）
        • 飛鳥時代後期には建立されていた。多くの人が信仰に立ち寄っていたはずです。
      • 海住山寺（上の図の△５）
        • 海住山寺は恭仁京を見下ろす「三上山」の中腹にある。その前身の「観音寺」は天平7年(735)聖武天皇の勅願で、東大寺の良弁僧正が建立した、とあるので、恭仁京造営の人々は「三上山、観音寺」を見上げていたに違いない。
    
    
  • 恭仁宮は発掘作業で遺構が見つかっている
    • （平城京・平安京なら「北方中央」だが）「恭仁宮」は「北東隅」に追いやられた形になっている。
      • 発掘調査は「昭和４９年(1974)」から始まった。その結果、「内裏、大極殿、朝堂院、それらを取り巻く垣」の位置がわかった。
      • さらに「恭仁宮の大きさは、南北＝約740ｍ、東西＝約540ｍ」であることもわかった（平成９年(1997)京都府教育委員会公表）。
        • 恭仁宮復元案の面積に対して建物は小さかったことになる（面積から想定される規模の５０〜６０％）。
        • このことは、続日本紀の「平城宮の第一次大極殿を恭仁宮に移転した」とある記事が「事実である」ことを証明した（わけである）。
      
      

      恭仁宮の復元案	大極殿址の碑	（移転された）「大極殿」復元図
      「足利健亮」の復元案 ∴＝大極殿址、赤丸＝国分寺跡	「恭仁小学校」（写真：左）のすぐ北側に建っている	「京都府埋蔵文化財調査研究センター」の資料から

      
      

• 恭仁京のその後
  • 天平１６年(744)２月には廃都となり、天平２０年(748)「恭仁京大極殿」は「山背国分寺」に施入された。このとき経典を納める七重塔も建てられた（今は「礎石」を残すのみ）。
    • 「舊恭仁宮址」＋「山城国分寺跡」の碑は、昭和３２年(1957)「国の史跡」に指定されたときに建てたもの。
    • 昭和４９年(1974)から始まった発掘調査で正確な位置が判明して、上記位置には「史跡 山城国分寺跡」の碑（下の写真）を残し、「舊恭仁宮址」は本来の位置に「恭仁京大極殿址」の碑（上の写真）として建て替えた。

「恭仁宮・山城国分寺跡」の碑 （昭和３２年(1957)）	現在は「山城国分寺跡」の碑のみ （昭和４９年(1974)）	現在の「恭仁京」の様子（全貌）
昭和３８年(1963)３月２９日撮影（「舊恭仁宮址」の碑も建っている）	平成１９年(2007)９月１０日撮影。発掘で整備した（七重塔の礎石もきちんと見える、左写真と様変わり）	「石碑」しか残っていない、どこにでもある「地方農村」にしか見えない（三上山下山路から撮影）