（東京から引っ越してきた人の作った京都小事典）

宗達 　　　　　　　　　　(INDEX：索引へ)

（念のため）この作品の著作権保護期間は終了しています。「忠実に再現するために撮影された写真」には通常著作権が発生しない（のですが博物館では一般人は撮影できない、そこでこの写真はPublicDomainから）。

• 宗達に関する史料（今のところ、以下の七つの史料しか見つかっていない）
  1. 千少庵書状（慶長１９年(1614)以前と推定）
     • 千少庵（千利休の後妻の連れ子）が紋屋妙持（西陣の織家）に宛てた書状。
     • 俵屋宗達から茶会に招かれたので一緒に行きましょう（と書いてある）。
     • 書状の中に俵屋宗達の名が見られる。書状に「年の記載」はない。
       • 「俵屋」という名が付いていた、有名な茶人と茶会を催すほどの文化人であった、ことなどがわかる。
  2. 中村通村日記（元和２年(1616)３月１３日の条、後水尾天皇の第一の側近）
     • 後水尾天皇が狩野興以に貝合わせの絵を描くのを命じた際、参考の一つとして「俵屋絵」を見せた（と日記に書いてある）。
       • もうこの頃には後水尾天皇は「俵屋絵」を好んでいたことがわかる。
  3. 光悦書状（元和７年(1621)と推定）
     • 本阿弥光悦が宗徳（茶人か）に宛てた書状。
     • 加藤嘉明（後の伊予松山藩主）茶会に招かれたが、前もって礼に行った方がよいか俵屋宗達に相談したが・・・（と書いてある））。
       • 光悦の方が年上のはずだが、内容から光悦は宗達を信頼していた、ことが窺える。
  4. 仮名草紙「竹斎」（元和年間(1615-1624)の終わり頃刊行された、記述は元和８年(1622)か）
     • 京都の上人の装束は名高いものばかりで扇は俵屋の扇を使う（と書いてある）。
       • 「俵屋」は有名な扇屋でもあった、ことがわかる。

     生家上京小川あたり	扇屋
     （現今出川通小川東入ル兼康町）表通りに面していなければ「こんな感じ」だったか。	写真は「宮脇賣扇庵」（六角通富小路東入ル）。創業が文政６年(1823)だから俵屋より新しいが、俵屋も店構えはこんな感じだったか。

  5. 一条兼遐書状（寛永７年(1630)、かねとう）
     • 一条兼遐（摂政、後陽成天皇の皇子）が兄の後水尾天皇の側近に宛てた書状。
     • 「宗達屏風下絵」を申し付けていた件、下絵が出来上がった（との連絡）。
       • 後水尾天皇が「楊梅図」を含む三双の金地屏風絵を宗達に発注していた、ことがわかる。
  6. 「西行物語絵巻」の烏丸光広筆奥書（寛永７年(1630)）
     • 「西行物語絵巻」（１３Ｃにはできていた）を宗達が２本の模写本を作った。その１本に烏丸光広が奥書した。
     • （奥書には）本多伊豆守富正の命を受けた光広が、「禁裏御本」を宗達法橋に模写させ、詞は光広自身が書いた（寛永第七季秋上澣）（とある）。
       • 寛永７年には法橋の地位にあった、ことがわかる。

• 七つ目の貴重な史料

  宗達自筆書状（唯一） 　　醍醐寺の僧「快庵」に宛てた書状 　　筍をもらったお礼（が書いてある） 　　年月日は不詳 　　宗達の字と花押がある 　　どんな筆跡なのかがわかる貴重な史料 日本の美術「宗達と光琳」（小学館）から

  
  

• 制作年がわかっている作品（僅か２作品）
  1. 「平家納経」（全３３巻）の内の『補修した』３巻の「表紙と見返しの図」（計６図）
     • 慶長７年(1602)福島正則の命で補修した（ことが明確になっている）。
     • ３巻（願文・化城喩品・嘱累品）の見返しには、それぞれ「鹿図」「槙と島図」「槙図」が描かれている。
     • この年まで「宗達に関する史料」は何も無い。にも拘わらずこの補修作業に呼ばれるということは、すでに名は知られていた（ということになる）。
  2. 「西行物語絵巻」（模写本）
     • 寛永７年(1630)の奥書がある（上記参照）。

• 国宝に指定されている作品（４作品）
  1. 「平家納経」（全３３巻）の内の３巻の「表紙と見返しの図」（計６図を補修、上記参照）
  2. 「蓮池水禽図」（水墨画）
     • 元和９年(1623)頃か（推定）。
     • 京都国立博物館所蔵。宗達が創始したたらし込み技法が使われている。
  3. 「源氏物語関屋澪標図」屏風（六曲一双）
     • 寛永１４年(1637)頃。
     • 静嘉堂文庫美術館所蔵。
  4. 「風神雷神図」屏風（二曲一双）
     • 寛永１６年(1639)頃。
     • 妙光寺再興記念に制作され、その後建仁寺に寄贈され、近年京都国立博物館に寄託された。

• 生没年の推定
  • 生年
    • 永禄１３年(1570)より少し前か。
    • 上京小川あたり（現今出川通小川東入ル兼康町）に住んだ「蓮池氏」一族（屋号「俵屋」の織家）の子として生まれたとの説が有力。
      • 蓮池家が檀家になっている頂妙寺（「牛図」（重文）所蔵）の史料から

      	左のような「家系図」が得れれる（[　]は雅号） 蓮池秀明が「俵屋（織家）」の当主、常知・常有が「織家」を継いでいる （次男）宗利は「喜多川」家に分家した 　　（その次男）常通が「俵屋」の養子になり「絵家」を継いだ（説１） 　　（分家した）「喜多川」家が「俵屋（絵家）」になり、常通が継いだ（説２） 　　本名は、説１をとれば蓮池常通、説２をとれば喜多川常通となる

    • 通称「野々村宗達」との説もある（根拠不明）。
  • 没年
    • 寛永１９年(1642)（が有力、もう少し前か）。

• 作品を中心にした年表
  • 火災などで焼失した作品もある。ここでは「現存する」そして「制作年が推定できる」作品に限定した。
  • 落款・署名などの無い作品が多い、多くの人が「宗達の作」だと鑑定している作品を選んだ。

    西暦	和暦	数え年	作品	補足説明	関連事跡
    １５６９	永禄１２年	１		ここでは永禄１３年(1570)の少し前とした	フロイス、信長に謁す
    １６０２	慶長７年	３４	平家納経（３巻の表紙図・見返し図の計６図、国宝）	初めての足跡である	海北友松「山水図屏風」を描く
    １６０５	慶長１０年	３７	「隆達節歌巻」の木版四季草花下絵
    １６０６	慶長１１年	３８	「光悦色紙」の金銀泥下絵[月に秋草図・秋の稲田図]	本阿弥光悦（書）との合作 　　光悦との付き合いは長い
    １６１０	慶長１５年	４２	「三十六歌仙和歌巻」の鶴下絵（重文）		長谷川等伯、没
    １６１６	元和２年	４８	「和歌巻」の四季草花下絵（畠山記念館所蔵、重文）		本阿弥光悦、鷹峯の地を拝領(1615)
    １６２１	元和７年	５３	養源院の襖絵[松図]、杉戸絵[唐獅子図・白象図]（重文）	尾形宗伯（光琳の祖父）の推薦があった（との説も）	この頃、土佐光吉「源氏物語図帖」
    １６２２	元和８年	５４	醍醐寺無量寿院の障壁画[芦鴨図]（水墨画、重文）	他の障壁画は焼失、現在芦鴨図のみ「衝立」で残る
    			「蓮池水禽図」（水墨画、国宝）	「伊年」の落款あり、この頃の制作か(1623)
    １６２６	寛永３年	５８	「松島図」屏風（六曲一双、フーリア美術館所蔵）	この頃までに法橋に(1624-1627)	この頃、狩野探幽「二条城の障壁画」
    １６２７	寛永４年	５９	「雲龍図」屏風（六曲一双、水墨画、フーリア美術館所蔵）	「宗達法橋」の落款
    １６３０	寛永７年	６２	「西行物語絵巻」（模写本、重文）
    			醍醐寺の「舞楽図」屏風（二曲一双、重文）	「法橋宗達」の落款
    １６３１	寛永８年	６３	「源氏物語関屋澪標図」屏風（六曲一双、国宝）	「法橋宗達」の落款、静嘉堂文庫美術館所蔵
    １６３９	寛永１６年	７１	「風神雷神図」屏風（二曲一双、国宝）	跡継ぎの宗雪が堺・養寿寺の杉戸絵を描く	本阿弥光悦、没(1637、８１歳)
    １６４２	寛永１９年	７４		ここでは有力説どおりこの年の「没」とした

    
    
  • 「現存しても」「制作年が推定できない」作品も多々ある。
    • 「和歌短冊」の四季花鳥下絵（本阿弥光悦筆）
    • 「新古今集和歌巻」の鹿下絵（本阿弥光悦筆、一部のみ現存）
    • 「百人一首和歌巻」の蓮下絵（本阿弥光悦筆、一部のみ現存）
    • 「嵯峨本」の表紙と下絵
      • 角倉素庵が音頭を取り、「紙」は宗二、「文字」は本阿弥光悦、「下絵」は宗達が担当して、木活字版の刷本を刊行した。
        • 「伊勢物語」（慶長１３年(1608)）、「方丈記」（慶長１５年(1610)）刊行
        • 現存するのは他に「徒然草」「観世流謡本」「百人一首」など。
    • 「扇面貼交」屏風（伝、八曲一双、宮内庁）
    • 「扇面散貼付」屏風（伝、二曲一双、醍醐寺、重文）
    • 「保元・平治物語図」扇面貼付屏風（共同制作、八曲一双）
      • 「俵屋」は扇を作っていた。その「扇面を貼り付けて屏風にした」作品も多い。
      • したがって、その扇面は「俵屋の職人」が制作したもので、必ずしも「宗達一人の作品とは言えない」。ということで「伝」「共同」になっている。
    • 「伊勢物語図」色紙（伝）
      • 少なくとも「筆」は烏丸光広（二条派歌人、正二位権大納言）である（ことが確認されている）。
    • 「牡丹図」「狗子図」「鹿図」（水墨画、宗達法橋の落款）
    • 「牛図」（双幅、水墨画、頂妙寺、重文、宗達法橋の落款）
    • 「槙檜図」屏風（六曲一双、石川県立美術館）

養源院	醍醐寺霊宝館
今でもガラス戸越しに『杉戸絵[唐獅子図・白象図]』が見られる。	『障壁画[芦鴨図]』、『「舞楽図」屏風』を保管している。

• 宗達没後の継承
  • 「俵屋（絵屋）」の流れ
    • 「俵屋宗雪」（宗達の跡継ぎ）の「秋草図屏風」（重文、東京国立博物館）
    • 「喜多川相説」（宗雪の跡継ぎか、喜多川を名乗っている）の「四季草花図押絵貼屏風」（黒部市美術館）
    • 「対青軒印」（俵屋（絵屋）の印）のある「槙楓図屏風」（山種美術館）
  • 「尾形光琳」の流れ
    • 宗達に私淑した光琳は「宗達の確立した装飾画（屏風絵）」を引き継いで、発展させた。これが後に琳派の祖と呼ばれる所以となる。

• 考察
  • 俵屋の宗達
    • 「俵屋宗達」を姓名のように呼ぶのには違和感を感じる。なぜなら、俵屋は姓ではなく「屋号」である、宗達も雅号（画号）である。絵師であるから雅号で呼ぶのは普通、したがって俵屋の宗達と呼ぶのが妥当と考える（そこで本ページのタイトルは単に「宗達」とした）。
  • 生涯
    • 裕福な家に生まれ、成人後「俵屋の扇」も売れた（意外と商売上手）ので、おそらく生涯「生活に困窮することは無かった」だろう。
    • 学問をどこで受けたかは不明だが、「美術的職場環境」に恵まれたので、画才は（自らの努力もあったでしょうが）自然と身に付いたと思われる（画の先生も不明）。
    • 妻帯した形跡はないが、「絵屋」の関係で美術関係の友人（宗二、光悦など）もでき、「絵」の関係で殿上人・寺僧・茶人との交際もあり、豊かな人生を過ごしたと思われる。
    • 頼まれれば描くが基本姿勢、自ら売り込むようなことはしなかった。（ここからは勝手な想像ですが）水墨画は自ら進んで描いたようです。